戸籍の証明書には「戸籍謄本」と「戸籍抄本」があることは、皆さまよくご存じのことかと思います。これらは現在、「全部事項証明書」と「個人事項証明書」という風に名前が変わっていますが、役所においてでさえ、今でも、圧倒的に謄本、抄本と呼ばれています。
 謄本と抄本の違いは、戸籍全体(つまり家族の分も含めて)の情報が載っているか、個人の情報のみが載っているかの違いです。
 それぞれに目的がありますが、どちらを取得するべきかを迷った場合は、大は小を兼ねますので、情報の多い謄本の方を選べば記載事項が足りないという事はありません。しかし逆に、余計な情報を開示してしまう恐れがあります(後述)。

 例えば、相続手続きのためには、被相続人(亡くなった方)と相続人の両方の戸籍を確認します。
 まず被相続人の戸籍を取得する目的は、現に死亡していることと、その日時の確認、そしてそこからすべての相続人を探すことにありますので、家族に関するものを含め、その方の生涯に関するすべての戸籍情報が必要です。よって被相続人の戸籍は、生まれてから亡くなるまでのすべての「戸籍謄本」を取得します(「生まれてから亡くなるまで」とする趣旨は、現在の戸籍外にいる子供などの有無を調べるためです。それゆえ生殖能力が備わる前の幼児期の戸籍は必要ないとされていますが、特別な事情がない限り生まれてから全部取得するのが無難です)。

 一方で相続人の戸籍を確認する目的は、被相続人が死亡した当時、その方が生きていたこと、また相続人として廃除されていないことなど、被相続人との一対一の関係性を証明することですので、部分的な情報で足ります。よって「戸籍抄本」を取得します。ただ前述の通り、大は小を兼ねますので戸籍謄本でも構いませんが、戸籍謄本には、今回の相続とは無関係の、配偶者(夫や妻)や子供の、名前、生年月日、出生地などの個人情報が載ります。これらを提出先に知られたくない場合は抄本の方がいいでしょう。

 また家族に離婚歴や養子縁組の過去がある場合、その旨も記載(または内容から推定)されます。金融機関などに知られたくない場合は注意が必要ですが、なぜか銀行等(相続放棄の際の裁判所も)は、相続人の戸籍についても「謄本」を求めるケースが多いようです。多分、理由は考えずに「戸籍と言えば謄本」くらいの感覚なのだと思いますが、個人情報保護の観点から本来は望ましくない取り扱いだと言えます。

 なお相続人がさらに亡くなっている場合は、その方も被相続人となりますから、その方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本が必要になります。
 もし戸籍の内容を、開示したくない場合は、「法定相続情報の一覧図」というものを法務局に申請、取得する方法もありますので必要に応じてご利用ください。
 
 当事務所で依頼者の方に代わり戸籍等を取得する場合は、プライバシー保護の観点から、用途に応じた必要最低限の情報のみを取得し、厳重に管理しております。